東北工業大学 工学部 情報通信工学科

佐藤研究室

希土類イオン添加固体レーザーの研究

固体レーザーは、半導体レーザーによる光励起が可能であることから全固体化及び高効率化に適しており、また高エネルギー動作や短パルス発生などにも有利です。レーザー結晶の母材には、Y3Al5O12 (YAG)やYLiF4(YLF)などが用いられ、その母材にわずかに添加された希土類イオン(Nd、Er、Tm、Hoなど)のエネルギー遷移を利用してレーザーが発振します。発振波長は、添加された希土類イオンのエネルギー準位によって決まるため、下図に示されるように飛び飛びですが、代表的なレーザーの発振波長は可視〜中赤外領域に存在します。佐藤研究室では、主に、Nd、Tm、Ho添加の固体レーザーの研究を行っています。

発振波長

図:代表的な希土類イオン添加固体レーザーの発振波長

結晶

図:希土類イオン添加結晶(写真はTm,Ho共添加のGdVO4)

波長1.4μm以上の波長帯は、目に対する安全性が高いことから「アイセイフ領域」といわれています。このアイセイフ領域で発振するレーザーを「アイセイフレーザー」といいます。レーザー光の目に対する安全性は、眼球での透過率と眼底(網膜)での吸収率で決まります。波長1.4μmは、それよりも長波長側の波長領域において眼球透過率及び眼底吸収率が共に低くなり、眼底の損傷のリスクが急激に低くなる境目の波長にあたります。希土類イオン添加の固体レーザーのうち、波長1.5μm帯、2μm帯、3μm帯で発振するEr、Tm、Ho添加の固体レーザーはアイセイフレーザーです。

センシング用レーザー技術の研究

レーザーを使って遠方の情報(エアロゾル、風、CO2濃度など)を取得できるセンサーとしてレーザーレーダー(ライダー)があります。ライダーは、光送信機にパルスレーザーを用いることにより距離分解能を有しているため、測定対象物の空間分布データを得ることができます。このとき、長距離の観測を行うためには高出力のレーザーが必要であり、また距離分解能を高めるには時間幅の短いパルスレーザー光が必要になります。

ライダー

図:ライダーの概略図

ライダーでは、高出力のレーザー光が大気中を伝搬するため、目に対する安全性に配慮する必要があります。アイセイフレーザーは、可視領域のレーザーに比べ、より高出力でライダー観測ができるため、長距離のライダー観測に適しています。また、CO2などの大気分子の濃度分布を観測する場合、その測定対象分子の吸収線波長で発振するレーザーが必要になります。例えば、CO2は波長2.05μm付近に吸収線をもっているため、波長2.05μmのレーザー光は、安全性においても吸収の性質においてもCO2観測に適しているといえます。

アイセイフレーザー

図:アイセイフレーザー(波長2.05μm)

また、ライダーでは、複数の波長のレーザー光を測定対象物に照射し、波長による反射率や吸収率の違いを観測することがあります。例えば、クロロフィルによる吸収が強い光(波長0.66μm)と吸収がない光(波長1μm)を地表面に照射し、その反射の違いを調べることにより、植生の活性度を知ることができます。これをレーザーで観測するためには、2波長で発振するレーザーが必要になります。

2波長レーザー

図:2波長レーザー(波長1.06μm&1.32μm)

この他に、センシング用レーザー技術の研究として、レーザーパルス形状の制御、高ビーム品質化、周波数安定化、小型化、高効率化などを進めています。

レーザー技術の環境応用

レーザーは、センシング以外にも応用が可能です。佐藤研究室では、新しい応用分野の開拓も進めており、その一つとして、CO2リサイクル技術への応用研究を進めています。この研究には、CO2で吸収される波長のレーザー光が必要ですが、ここでCO2観測用の波長2.05μmのレーザーが利用できないか実験及び検証を進めています。

光触媒

図:波長2.05μmレーザーを用いたCO2リサイクル実験

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