東北工業大学 情報通信工学科 中川研究室 

中川朋子 学会・シンポジウム 発表論文要旨 

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月のウェイク境界におけるリングビーム電子によるホイッスラー波の励起
Generation of whistler mode waves at the boundary of the lunar wake
中川朋子(東北工大)、飯島雅英(東北大)、羽田 亨(九州大)、松清 修一(九州大)
Nakagawa, T., M. Iizima, T. Hada, S. Matsukiyo
2005年地球惑星科学関連学会合同大会、 2005年5月.

   1994年10月25日、磁力線がGEOTAIL衛星と月のウェイクを結んだ時に、月から約4万7千km上流の太陽風中において、月のウェイク起源のホイッスラー波が観測された。 この波は、太陽風速より僅かに速い群速度で太陽風を遡り、太陽風速より僅かに遅い位相速度のためにドップラーシフトして左回りの波として観測されたものである。この位相速度、群速度の条件から波数と周波数の範囲がわかり、これより、この波とサイクロトロン共鳴条件したのは0.96-2.5keVのエネルギーを持った電子ビームであったと推定された。電子ビームの向きは太陽から遠ざかる方向でなければ粒子のサイクロトロン運動と波の電場の回転する向きが合わない。この電子ビームは、元々太陽風中のstrahl成分であるが、月のウェイク境界に出来る分極電場で反射されずにポテンシャル障壁を通過することの出来た粒子群と考えられる(Nakagawa et al., 2003)。

 透過電子がサイクロトロン共鳴してULF波にエネルギーを渡すためには、磁力線に垂直な速度成分が卓越している必要がある。元々の太陽風中のstrahl成分は磁力線に沿って流れているが、ウェイク境界の分極電場構造を通過する際にピッチ角分布が変わることが、テスト粒子を用いた数値実験で確かめられている。ウェイクの境界に出来る分極電場に斜めに磁力線が交差していると、電場層に入射した電子は、磁力線に平行な電場成分によって減速されると同時に、磁力線に垂直な電場成分によって電場ドリフトを始め、磁力線に垂直な速度成分を得る。負の電荷、正の電荷の作る3層の電場構造を想定すると、旋回途中で電場層から抜けた電子が逆向きの電場の層を乗り換えることによって、ウェイク境界の内側では、磁力線に垂直な速度成分が卓越するリング状の速度分布となることが示されている。

 本研究では、こうしてリング状の速度分布を持つようになった電子ビームが実際にホイッスラーモードの波を立てるかどうかを、1次元粒子シミュレーションによって調べた。GEOTAILによる観測に基づき、リングビーム電子の磁力線に平行な速度成分は光速の6.2%(1keV)とし、垂直成分はその1.5-2.5倍とした。GEOTAIL観測と過去のWIND衛星の観測を参考に、ウェイク中の背景電子の温度は50eV、電子密度は太陽風中の10分の1と仮定した。また、ウェイク内は磁場強度は変わらず電子密度の減少分だけプラズマ周波数が下がると考え、電子サイクロトロン周波数Ωとプラズマ周波数の比は0.03とした。全電子数に対するリングビームの密度比を10%として計算を開始すると、GEOTAILで観測されたような波数(15.7Ω/c以下)の低周波(周波数0.023Ω以下)の波が立ち、リングビームと逆方向(太陽風を遡る方向)にゆっくり伝搬するのが観察された。これにより、ウェイク境界における分極電場によるドリフトでリングビームとなった電子がサイクロトロン共鳴によって太陽風をさかのぼる波を励起しうることが確認された。

Nakagawa et al., EPS 55, p569, 2003.

At the boundary of the lunar wake, solar wind ions and electrons are thought to rush into the void region at different speeds, producing ambipolar electric field structure. When the solar wind magnetic field intersects the layers of the electric field, slow speed componets of the solar wind electrons are reflected back, and high speed (halo) components that penetrate through the electric field undergo electric field drift to obtain perpendicular speed and thus form a ring beam distribution in velocity space. Through the cyclotron resonance, the ring-beam electrons are thought to generate whistler mode waves propagating against the beam as observed by GEOTAIL in upstream region of the moon when it was magnetically connected with the lunar wake (Nakagawa et al., 2003).

In order to see that the whistler mode waves are generated by electron beam which has the ring distribution in velocity space, one-dimensional particle simulation was carried out by using the parameters as observed by GEOTAIL, i.e., cyclotron frequency of 174 Hz and the beam energy of 1keV. The velocity component perpendicular to the magnetic field was estimated to be 1.5 -2.5 times as large as that of the parallel component, according to the previous test-particle simulation. The whistler mode waves propagating against the beam was found to be generated by the ring beam electrons when the plasma density in the wake was estimated to be 10% of that in the solar wind.

Nakagawa et al., EPS 55, 569, 2003.

2001年9月25日マグネティックホール付近の低周波磁場変動:未知の彗星の可能性
Low-frequency waves at the magnetic hole detected on September 25, 2001
中川朋子(東北工大)、 寺沢 敏夫(東大大学院)、 渡部 潤一(国立天文台)、 岡 光夫(JAXA/ISAS)、 中田 康太(東大大学院)、 斎藤 義文(JAXA/ISAS)、 向井 利典(JAXA/ISAS)
Tomoko Nakagawa, T.Terasawa, J. Watanabe, M. Oka, K. Nakata, Y. Saito, T. Mukai
第118回地球電磁気・地球惑星圏学会、京都、京都大学、2005年9月30日.

  2001年9月25日、太陽風中にあった3つの探査機によって、 衝撃波下流のマグネティックホールが観測されているが、 地球からはるか上流にあったACEと地球の近傍にあったGEOTAILで よく似た磁場が観測されているのにもかかわらず、 その中間の位置にあったWIND衛星では様相が違っていた。 ACE,WINDで観測されたマグネティックホールが2,3分の 継続時間であったのに対し、WINDでは10分以上にわたって マグネティックホールが観測されていた。 Terasawa et al. (2004) は, GEOTAIL搭載のMGF, LEP, PWI, EPICの 観測に基づき,マグネティックホール内にのみ高温 (40-80eV) で 密度20個/ccのプラズマが存在し、 そのすぐ外側の低温 (40eV) で高密 (30-40個/cc)の 磁場の強い(35nT)プラズマに囲まれていたことを示した。 この低温-高温-低温の構造全体が衝撃波下流の高速高温高密度のプラズマ中に 埋まっている形となるが、この低温-高温-低温の構造のあるところだけ、 太陽風速度が減少していた。 これがあたかも何か新しいプラズマが太陽風プラズマに付加されたように 見えることから、ハレー彗星のイオンピックアップと同様に、 未知の小天体(彗星、氷のかけら等)がこの構造に関わっていた可能性が考えられる。 2001年夏から秋の期間、既知の彗星・小惑星で該当するようなものは無かったが、一方、 GEOTAIL/LEPでは、不完全ながらピックアッププロトンの特徴がみられている。 ACE,WIND,GEOTAILの磁場データ(それぞれ16秒、3秒、3秒値)を 2分間ずつフーリエ変換すると、マグネティックホールおよびその周辺の 低温高密プラズマ中、さらにその周辺の磁場の強いエリアに亘って、 ほぼ酸素イオンのサイクロトロン周期〈約30秒)の波が観測されていることが 分かった。マグネティックホール内外での磁場変化に伴って サイクロトロン周波数も変化するが、観測結果から得られたスペクトルでも 周波数の変化がこれに追随することがわかった。 これはWIND衛星で最も顕著に見られた。
Terasawa et al. (2004), AGU Fall meeting, SH33A-1192.

Terasawa et al. (2004) reported a magnetic hole in the solar wind preceded by an interplanetary shock detected by ACE, WIND and GEOTAIL on 25 September 2001, which appears similar in between ACE and GEOTAIL observations but quite differently in WIND observation. The duration of the magnetic hole detected by WIND was 3-4 times as large as those detected by ACE and GEOTAIL, suggesting that WIND was closest to the central part of the hole. GEOTAIL measurements showed that hotter (40-80eV) plasma was confined in the hole, surrounded by colder (40eV) and denser (30-40/cc) plasma in intense magnetic field (35nT). The symmetric structure of hot-cold-hot plasmas is immersed in the shocked solar wind. The solar wind velocity showed a significant decrease in the symmetric structure centered at the magnetic hole, suggesting that some mass-loading process. As a working hypothesis, we assume that an unknown comet was associated with the magnetic hole. In this study, a low-frequency wave is searched in the magnetic field data at the cyclotron frequency of Oxygen ions. There found enhancement of magnetic fluctuations at around the cyclotron frequency of Oxygen. They exhibited variation in their frequency, in accordance with the variation of the cyclotron frequency.

リムCMEを用いた太陽近傍の背景太陽風速の推定
中川朋子(東北工大)
名古屋大学STE研究集会および太陽圏シンポジウム、 2006年1月13日.

 太陽風プラズマの加速にとって、太陽から20太陽半径以内の太陽近傍は特に重要な領域と考えられるが、この範囲の太陽風速の直接観測は無く、太陽風の初速を知ることは難しい。数少ない情報のひとつが太陽表面から放出されるCoronal mass ejections(CMEs)の速度である。 放出時のCME速度はX線や紫外線などで観測され、同じCMEを惑星間空間で検出することで、その後の速度発展が調べられてきた。これまでに Pioneer 9, Helios 1, 2, Pioneer Venus等の探査機によって得られた観測では、初速度の遅いCMEはその後加速され、初速度の速いCMEはその後減速されるという傾向が示されていたが、Gopalswamy et al.(2000,2001)は、CMEが太陽の縁から放出される際の速度v0と、そのCMEが1AUに達するまでの平均の加速度aとの間に線形の関係があることを統計的に示した。この関係は、ある速度ucからのCMEの速度v0の差v0 - uc に比例した抵抗を受けることを示すため、この uc という値を実効的な「背景の」太陽風速と考えることができる。 もし、太陽から放出された直後のCME初期加速度a0についても速度v0との間に同様の線形の関係があるならば、通常は観測が困難な太陽近傍の「背景の」太陽風速度を得ることができるのではないかと考えられる。 本研究では、SOHO/LASCO CME Catalogue (http://cdaw.gsfc.nasa.gov/CME_list/)中のリムCMEを用い、1998年から2003年までの解析期間中、14日の区間をスライドさせながら、緯度別にCMEの初速度v0に対する初期の加速度a0 の回帰直線を求め、「背景の」太陽風速の推移を見た(Nakagawa et al., 2006)。位置の計測が5点未満しか無いCMEやhalo CMEは加速度の精度が良くないので相関解析から除外した。  その結果、初速と加速度に良好な線形の関係があった場合に限定すれば、低緯度(赤道面から20度以内) の場合でおよそ100-700km/sの範囲の「背景の」太陽風速が得られた。この値は地球軌道付近の太陽風速度250-700km/sに近いが、低速側へ広がっている。惑星間空間の同時観測と比べると、1AUの速度と一致する場合もあるが、低速側へずれることも多かった。 これが太陽近くの太陽風速を正しく反映しているとするならば、20太陽半径以内という短い距離でおおむね太陽風が加速されており、一部は20太陽半径以遠でも追加の加速があることを示していると考えられる。
参考文献:
Gopalswamy et al., GRL, 27, p145, 2000.
Gopalswamy et al., JGR, 106, p29207, 2001.
Nakagawa et al., JGR, 111, in press, 2006 (doi:10.1029/200JA011249).

リムCMEの速度変化を用いた太陽近傍の太陽風速の推定
Estimation of the solar wind speed near the Sun on the basis of speed measurement of limb CMEs
中川朋子(東北工大), N. Gopalswamy(NASA/GSFC), 八代誠司(CUA)
Nakagawa, T., N. Gopalswamy, S. Yashiro
日本地球惑星科学連合2006年大会、 2006年5月15日.

太陽から20太陽半径以内の太陽風速を測ることは、 加速メカニズムの解明にとって重要と考えられるが、 この領域における太陽風速の直接観測は未だ困難である。 数少ない情報のひとつが太陽表面から放出されるCoronal mass ejections(CMEs)の速度である。 太陽近傍で観測されたCME速度を、地球軌道付近でのPioneer 9, Helios 1, 2, Pioneer Venus等の 探査機による観測と対応付けた従来の研究では、初速度の遅いCMEはその後加速され、初速度の速い CMEはその後減速されるという傾向が示されていた。 Gopalswamy et al.(2000,2001)は、CMEが太陽の縁から放出される際の速度v0と、そのCMEが 1AUに達するまでの平均の加速度aとの間に線形の関係があることを統計的に示した。 これは、CMEが、ある速度uとの差v0 - u に応じて抵抗を受けることを示唆するため、 このu という値を実効的な「背景の」太陽風速と考えることができる。

本研究では、SOHO/LASCOの視野内すなわち太陽から放出された直後のCMEについても 加速度と速度との間に線形の関係がある場合(Nakagawa et al., 2006)を用い、 太陽からおおよそ20太陽半径以内の「背景の」太陽風速度を得た。 使用したデータはSOHO/LASCO CME Catalogue (http://cdaw.gsfc.nasa.gov/CME_list/)中の リムCMEの速度と加速度である。一つ一つのCMEについて、時間に対する高度変化から 速度と加速度が求められている(Yashiro et al., 2003)。できるだけ信頼性の高い値を用いるため、 位置の計測が5点未満しか無いCMEやhalo CMEは解析から除外した。   東か西の縁上の特定の緯度ごとに、 ある一定の期間中(14日または7日)に発生したCMEについて、 CMEの初速度v0に対する加速度a0 の回帰直線を求め、「背景の」太陽風速を求めた。 回帰直線を求めるに当っては、初速度、加速度それぞれの誤差を考慮し、観測値と理論式の差を自乗して それぞれの誤差の自乗和(速度の誤差は一次式の係数をかけた後に自乗)で割ったものの総和が 最小となるように決めた。こうして求めた総和は、初速度と加速度の誤差がそれぞれ正規分布する場合は カイ自乗分布すると考えられるので、この総和が自由度N-2(NはCME個数)のカイ自乗分布の 信頼水準99%の信頼区間に入れば「線形の関係あり」と判定し、そのときのuを採用した。 得られた「背景の」太陽風速度uの誤差は自由度2のカイ自乗分布の信頼限界とした。

こうして得られた太陽から20太陽半径以内の「背景の」太陽風速度uは、誤差が100%を超える場合もあるが、 統計的に見ると、1998年から2003年までの解析期間中、低緯度(赤道面から20度以内) では およそ100-700km/sの範囲に分布していた。 この値は地球軌道付近の太陽風速度(通常250-700km/s)に比べて低速側へ広がっていることがわかる。 低緯度(20度以内)、中緯度(25-65度)、高緯度(65度以上)の結果を比べると、高緯度ほど 高速となる傾向が見られた。 同時期の惑星間空間の同時観測と比べると、1AUの速度と一致する場合もあるが、 低速側へずれることも多かった。 これが太陽近くの太陽風速を正しく反映しているとするならば、20太陽半径以内で 太陽風はおおむね1AUに近い値まで加速されており、 一部は20太陽半径以遠でも追加の加速があることを示していると考えられる。

参考文献:
Gopalswamy et al., GRL, 27, p145, 2000.
Gopalswamy et al., JGR, 106, p29207, 2001.
Nakagawa et al., JGR, 111, in press, 2006 (doi:10.1029/2005JA011249).
Yashiro et al., JGR, 109, 2004 (doi:10.1029/2003JA010282).

To obtain solar wind speed in the region within 20 solar radii from the Sun is important for the understanding of the acceleration of solar wind plasma, but direct access has been difficult. Measurement of the speeds of coronal mass ejections (CMEs) is one of the limited methods to obtain the solar wind speed in the vicinity of the Sun. Gopalswamy et al. (2000, 2001) presented a linear relationship between initial speeds of limb CMEs and their average acceleration during their travel time in interplanetary space, which suggests that a dragging force is acting on the CMEs, depending on the speed difference between the CMEs and the ambient plasma.

The linear relationship was found between the initial acceleration and the speed of the limb CMEs measured within the field of view of the SOHO/LASO telescopes as well. Using the relationship, we can estimate the solar wind speed in the vicinity of the Sun. The ambient solar wind speed within 20 solar radii estimated from low-latitude CMEs during 1998-2003 ranged from 100 to 700 km/s, while the solar wind speed measured at 1AU ranged from 300 to 700 km/s. The estimated solar wind speeds in the vicinity of the Sun sometimes agreed with the simultaneous in situ measurements at 1AU, but in other periods, they were slower than the speeds measured at 1AU. It is suggested that most of the time the low-latitude solar wind completes accelerating within 20 solar radii, but occasionally additional acceleration is present beyond 20 solar radii.

「のぞみ」「ACE」磁場観測によるフラックスロープモデルの検証
A test of flux rope model by NOZOMI and ACE magnetic field observations of a magnetic cloud
神保健一, 中川朋子(東北工大), 松岡彩子(JAXA/ISAS), 「のぞみ」MGFチーム
Jinbo, K., T. Nakagawa, A. Matsuoka, NOZOMI MGF Team
日本地球惑星科学連合2006年大会、 2006年5月15日.

プロミネンス消失等で発生するロープ状にねじれた特徴的な磁場構造は、惑星間空間に放出された場合、マグネティッ ククラウドとして観測され、フラックスロープと呼ばれる3 次元的な構造を持っていると考えられている。しかし、人 工衛星による磁場データの観測は、ある一点での観測である為、立体的な構造として捉えなければならない磁気ロープ を調べるためには、情報が不足しがちであった。 1999 年4 月16-17 日にACE 衛星によって観測されたマグネティッククラウドは、Ishibashi and Marubashi(2004) によ り、大半径0.3AU、断面半径0.07AU のトーラス型のフラックスロープ構造にフィッティングされ、そのパラメタが公表 されている。この構造は、約0.2AU 下流、太陽中心経度差3 度(距離にして0.06AU)の位置にあった火星探査機「のぞ み」の磁力計でも1 日遅れで検出されており、モデルの妥当性を検討できる貴重なイベントとなっている。この直前ま で「のぞみ」とACE の観測はよく一致していたにも関わらず、このイベントの通過時にはそれぞれの探査機で南北成分 が逆の磁場を観測した。

本研究では、発表されたパラメータを用いて描いたトーラス形の理論モデルを衛星で観測された磁場データの3 次元 表示に重ねて表示し、「のぞみ」とACE の観測の違いが、同一のフラックスロープの異なる位置を通過した結果と考え られるかどうか検討する。使用データは1 時間平均した磁場3成分データで、磁場のデータを可視化するためのプログ ラムはJava 言語を利用して作成した。このプログラムでは2つの探査機で観測された磁場を、異なる色でベクトル表示 している。磁場の強さを線の長さ、磁場の向きを線の向きに対応づけた。線で表現された磁場は「のぞみ」、ACE の軌道 に基づいた位置に配置している。磁場のベクトルの間隔は、太陽風が平均速度400[km/s] で1 時間に進む距離に対応させ た。トーラス形モデルの磁気ロープの磁力線はワイヤーフレームで表現されている。磁気の強さを線の輝度の違いとし て表現した。このプログラムを実行して、視点を変えながら磁気ロープの磁場と思われる部分について観察して、トー ラス形のモデルに一致するのか検討を行った。視点を連続的に変化させて磁場の構造を観察した結果、「のぞみ」はトー ラスの小径の中心から外れた部分を通過したことがわかるが、トーラス型モデルの磁場の向きが「のぞみ」が観測した 磁場と一致しないという結果となった。

Reference:
Ishibashi and Marubashi, (2004), Geophys.Res.Lett.31, L21807, doi:10.1029/2004GL02702.

The torus-shaped flux rope model applied to the magnetic cloud observed by ACE on April 16-17, 1999, was tested by the nearly simultaneous observation by NOZOMI spacecraft that was within 3 degrees in heliocentric longitude and 0.2 AU in heliocentric distance of ACE. At the passage of the magnetic cloud, the Bz component was positive at NOZOMI while negative at ACE. The torus-shaped flux rope model fitted to the ACE event by Ishibashi and Marubashi(2004) was overlaid on the magnetic field vectors obtained from NOZOMI observation. The result suggests that the difference of the field direction between NOZOMI and ACE was not explained by the different path through the single flux rope structure.

月周辺の電場構造の2次元シミュレーション
A 2-Dimensional full particle simulation of the electric field around the moon
木村進矢, 中川朋子(東北工大)
Kimura, S., T. Nakagawa
日本地球惑星科学連合2006年大会、 2006年5月15日.

太陽風が月に当たると月が粒子を吸収し、月の下流側にはウェイクと呼ばれる粒子の密度が低い領域が形成される。月 のウェイクは、超音速流中の障害物の下流にできる電気的中性が保障されないプラズマの実験場として貴重な場を与えて いる。人工衛星GEOTAIL が月とそのウェイクと磁力線でつながったとき、1Hz 付近に強い磁場変動を観測した(Nakagawa et al., 2003)。この波が太陽風中の電子ビームと共鳴して発生したホイッスラー波が磁力線を伝わってGEOTAIL まで達し たものならば、月ウェイク境界に1kV くらいの電位差が必要であると考えられる(Nakagawa and Iizima, 2005)。しかし、 そのような電場構造は今まで報告されていない。WIND 衛星(Ogilvie et al., 1996) は月の半径の6.5 倍後方を一度通過し ているが、ウェイク境界において強い電場構造は報告されていない。Lunar Prospector 衛星(Halekas et al., 2005) は、月 から20-150km の高度で6000 回周回し電子の速度分布の観測により電位を推定し、月の裏側のウェイク中心部では太陽 風中よりおよそ300V 電位が低いことを報告したが、これでは観測されたようなホイッスラー波を励起することはできな い。1 次元による粒子シミュレーションの解析結果(Farrell and Kaiser,1998; Birch and Chapman, 2001) を見てもホイッス ラー波が励起できるような電位差は得られていない。

そこで本研究では、従来の衛星が観測していなかった月の表面に近い場所に、ホイッスラー波が起こるような電場構造 ができるかどうかを調べるため、ElectroStatic コード(Birdsall and Langdon,1985) に基づいて、月の形を考慮に入れて2 次元のシミュレーションを行った。2 次元に取ったシミュレーションボックスの空間内に月を配置し、太陽風をイオンと 電子の粒子として扱い、月周辺にどのような電場構造が現れるかを見る。GEOTAIL 観測時は太陽風中の速度が500km/s であり、イオンの温度を20eV とするとイオンの熱速度は62km/s なので、シミュレーションではイオンの熱速度を太陽 風速度の0.12 倍とした。粒子の速度分布はMaxwell 分布とした。電子とイオンの質量比は1:100 としたので、電子の熱 速度はイオンの熱速度の10 倍とした。デバイ長は月半径の1.1 倍となりこれはGEOTAIL 観測時の33m よりかなり大き い。粒子の位置を決めるとき、月は導体ではないので月に当たった粒子は月の表面で固定した。背景磁場がない場合は 月の夕方と朝方の両側に、太陽風に対しておよそ250V の強い負の電位差が現れた。この電場層の厚さはおよそデバイ長 くらいであった。この電場の生成は、月の裏表面に吸着した電子によるものであると考えられる。月の裏側表面は太陽 風に対しておよそ180V の負の電位構造ができていた。これはLunar Prospector 衛星が月の裏側表面付近で求めた構造と 似ているが、Lunar Prospector 衛星の観測のほうが300V と大きい。

背景磁場として太陽風の流れる方向より45 度傾けた方向の磁場を入れると、月の両側の電場の強さに非対称が生じ、 月の片側には背景磁場を入れなかったときより強い電場構造が現れた。電場層の厚さはおよそデバイ長くらいである。磁 場の強さは電子のラーマー半径をデバイ長の2 倍とした。ラーマー半径とデバイ長が同じときと、ラーマー半径がデバ イ長の1/2 倍のときの実験も行ったが、電場構造には変化が見られなかった。背景磁場を入れたときと入れないときの、 月のサイドに生じた強い電場の最大値を比較したところ、磁場を入れた方がおよそ1.7 倍強いという結果が出た。この月 のサイドに生じた強い電場構造でホイッスラー波が励起された可能性も考えられる。

In order to see the electric structure around the moon, a 2D full particle electrostatic simulation is carried out. The moon is put in the simulation box, in which solar wind ions and electrons flow past the moon. To simulate the real solar wind, the thermal velocity of ions is set to be 0.12Vsw, where Vsw is the solar wind speed. The ion to electron mass ratio is set to be 100, resulting in the thermal velocity of electrons of 1.2Vsw. The Debye length is 1.1 times as large as the moon radius, although it is larger than the Debye length 33m observed in the solar wind. If a particle hits the moon, the particle is fixed at the position. In the case of no background magnetic field, an intense potential appears on the dawn and dusk sides of the moon. The potential difference is 250V. Behind the moon, the potential difference is 180V. Introducing a background magnetic field whose direction is 45 degrees with respect to the solar wind flow, we obtain more intense electric potential on one side of the moon. It is 1.7 times as large as in the case of unmagnetized plasma.

Estimation of the solar wind speed near the Sun on the basis of speed measurement of limb CMEs
Nakagawa, T., N. Gopalswamy, S. Yashiro
AOGS Annual Meeting 2006, 2006 July 12 (presented by Dr.Gopalswamy)

Observational information on the solar wind speed in the region within 20 solar radii from the Sun is essential to understand the acceleration mechanism of the solar wind, but direct access to the region has been difficult. Measurement of the speeds of coronal mass ejections (CMEs) provides us one of the limited opportunities to know the solar wind speed in the vicinity of the Sun. Gopalswamy et al.(2000, 2001) presented a linear relationship between the initial speeds of limb CMEs and their average acceleration during their transit to 1AU in interplanetary space, which suggests that a dragging force is acting on the CMEs, depending on the speed difference between the CMEs and the ambient plasma. The linear relationship was found between the initial acceleration and the speed of the limb CMEs measured within the field of view of the SOHO/LASO telescopes as well. Using the relationship, we can estimate the solar wind speed in the vicinity of the Sun. The ambient solar wind speed within 20 solar radii estimated from low-latitude CMEs during 1998 - 2003 ranged from 100 to 700 km/s, while the solar wind speed measured at 1AU ranged from 300 to 700 km/s. The estimated solar wind speeds in the vicinity of the Sun sometimes agreed with the simultaneous in situ measurements at 1AU, but in other periods, they were slower than the speeds measured at 1AU. It is suggested that most of the time the low-latitude solar wind completes accelerating within 20 solar radii, but occasionally additional acceleration is present beyond 20 solar radii.

太陽電波タイプIIIバーストのモジュレーション観測による太陽風加速域のMHD波検出の可能性
Possible detection of the MHD waves in the type III solar radio bursts
中川朋子、飯島 雅英
Tomoko Nakagawa, M. Iizima
第120回地球電磁気・地球惑星圏学会、神奈川、相模原産業会館、2006年11月6日.

太陽風の加速過程の解明は、宇宙空間プラズマ物理学に残された最も大きな課題のひとつである。 温度6千度の光球から数百万度のコロナへのエネルギーの供給を説明するには、 エネルギーが「熱」以外の姿で輸送され、徐々にコロナに渡されるしくみを解明しなければならない。 このメカニズムとして有力視されているもののひとつが、光球直下の対流の運動エネルギーを 磁場のエネルギーとして輸送し、MHD波を介してコロナを加熱するという考えである。 しかしながら、太陽半径の数倍以内の加速域に探査機を送ることが困難であるため、 MHD波によるコロナ加熱のカニズムを検証する観測が欠落していた。

本研究では、太陽風の加速域におけるMHDの情報を届けてくれる可能性のある現象として タイプIIIバーストについて検討する。タイプIIIバーストは、太陽フレアなどに際して加速された電子ビームによって その場のプラズマ周波数(またはその2倍)と等しい周波数の電波として放射される現象であり、 太陽からの距離とともにプラズマ密度が下がるにつれ観測周波数が急激に下がる特徴を持つ。 フレアで加速された電子ビームはフレア領域においてはジャイロシンクロトロン放射によって GHz以上の周波数の電波を放射し、X線、ガンマ線との同期性や磁力線ループの振動に関連した準周期性も 報告されている。 一方、MHD波が太陽風の加速に大きな役割を果たしていると考えられる、太陽半径の数倍程度の距離においては、 プラズマ密度は1立方センチあたり10の8乗個程度まで下がっており、 このような低密度領域においても放射されるタイプIIIバーストは、プラズマ波動(ラングミュア波動)が 電磁波に変換され放射されたものと考えられ、周波数帯は数十MHzのデカメートル波帯となる。 この周波数帯のタイプIIIバーストは、基本的に開いた磁力線上の現象であり、 フレアや硬X線イベントを必ずしも伴わない場合も多いといわれている。 その電波放射は背景プラズマの密度揺らぎの影響を受けるため、太陽風の加速をになう大振幅のMHD波によって 変調を受けることが期待される。

本研究では、東北大学惑星プラズマ大気研究センター飯舘観測所において、 0.5秒ごとに周波数分解能35.7kHzで観測された帯域15-40MHzのタイプIIIバーストのスペクトルから 背景ノイズを差し引き、2秒平均してスペクトルの揺らぎを消したデータ中から、 18MHz、23MHz、31MHz付近に現れるピークを検出した。 ピークは1箇所の場合も2,3箇所の場合もあり、その周波数は現象ごとに異なっていた。 このピークのプラズマ周波数は太陽からの距離およそ1.7Rs、1.3Rs、0.8Rs(Rsは太陽半径)に対応する (実際は、プラズマ密度の高度プロファイルは磁力管ごとに異なると考えられるので、 この対応はあくまで大雑把な見積もりである)。 この間の距離0.4-0.5RsをMHD波の波長と考え、MHD波の速度(Alfven波の速度で代用)を光速の1-5%程度と考えると、 周期20-100秒程度の波に相当する。各周波数の電波の強度変動には10-20秒程度の変動もみられるが、 入射電子ビーム生成の準周期性によって生じた可能性も考えられる。 一方、個々のタイプIIIバーストの継続時間も20-120秒程度であるので、各イベント中の振動回数は1回前後となる。 それゆえ現時点では、この周波数ピークがMHD波そのものを反映している可能性のほか、 特定の高度においてMHD波が大振幅となって壊れてゆく空間構造を表している可能性も考えられる。

Magnetohydrodynamic (MHD) waves are thought to play an important role in heating and acceleration of the solar wind, but the difficulty of sending spacecraft to the very site of the solar wind acceleration prevented us from direct observation of the MHD waves. In this paper, an attempt is made to detect MHD waves in the decametric type-3 solar radio bursts in the frequency range from 15 to 40 MHz. After subtraction of the background noise and 2-second average of the spectra obtained every 0.5 sec at Tohoku University Iitate observatory, there found one to three peaks at around 18, 23, or 31 MHz in the spectra. The peak frequencies are different for each event. These frequencies correspond to the distance of about 1.3 to 1.7 solar radii from the Sun. By assuming the distance between the peaks the wavelength of the MHD wave, we obtain the wavelength of about 0.4 solar radii and the period of the wave of 10 - 100sec calculated from the wave velocity of 0.01 - 0.1 c.

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