東北工業大学 情報通信工学科 中川研究室


中川朋子 学会・シンポジウム発表論文要旨 

かぐや衛星による地球磁気圏ローブ中の月周辺のイオンサイクロトロン波の観測
Ion cyclotron waves observed by Kaguya/LMAG around the moon in the Earth's magnetosphere
中川 朋子, 綱川 秀夫
Nakagawa, T., H. Tsunakawa
日本地球惑星科学連合2015年大会、千葉、幕張メッセ国際会議場、2015年5月26日.

太陽風と月の相互作用によってさまざまな低周波の磁場変動が月の周りに発生することが知られるようになってきたが、月が地球磁気圏のローブ中にある時にも、月面上で、約10秒周期の磁場変動が観測されていたことがわかっている。これは1970年代のアポロ15,16号ミッションで月面上に設置された磁力計(LSM)によって得られたデータを解析し直して発見された狭帯域の波で、背景磁場に垂直な変動成分が卓越しており、イオンサイクロトロン波と考えられている(Chi et al., PSS, 2013)。その励起機構として、月面での吸収によりプラズマの温度異方性が高まってサイクロトロン不安定を起こしたというシナリオと、ピックアップイオンのサイクロトロン共鳴というシナリオが示唆されているが、詳細は未解明である。

この発見は月面上に固定された2つの磁力計によって行われたため、どのような位置、どのような背景磁場のもとで観測されるのかという情報が少ない。そこで本研究では、月面からの高度100kmの軌道上を周回していたかぐや衛星の磁場観測を用いて同様の現象を調査した。その結果、プロトンサイクロトロン周波数(0.1Hz)に近い周波数の波が、月の昼側(地球側)でも、夜側(磁気圏尾部側)でも、昼夜境界上空でも観測され、月面上に固定した座標で見ても様々な場所で観測されていること、また、磁力線が月面と探査機をつないでいるときも、そうでないときも観測されていることがわかった。月面上での観測結果と異なり、背景磁場に平行な方向の変動成分も大きく、斜め伝搬であることが多かった。この波は月面とプラズマの相互作用を考えるうえで新しい知見をもたらしてくれると期待される。

Narrowband ion cyclotron waves as found by Apollo 15 and 14 Lunar Surface Magnetometers were detected in the magnetic field data obtained by MAP/LMAG magnetometer on board Kaguya at an altitude of 100 km above the moon in the tail lobe of the Earth’s magnetosphere. The frequency of the waves was near the local proton cyclotron frequency. They had a significant compressional component. They were detected on the dayside, on the nightside, or above the terminator of the moon. Analysis of the waves detected by Kaguya would contribute the understanding of the moon-plasma interaction.

衛星かぐやが月周辺で観測した周波数帯3―10Hzの磁場変動の強さについて
On the intensity of the 3-10 Hz magnetic fluctuations observed by Kaguya near the moon
渡邊 祐輔,照井 孝輔, 香川 翔吾, 中川 朋子, 綱川秀夫
Watanabe, Y., K.Terui, S. Kagawa, T. Nakagawa, H. Tsunakawa
日本地球惑星科学連合2015年大会、千葉、幕張メッセ国際会議場、2015年5月25日.

月には大きな磁場がないため、月面に太陽風が当たるとほとんどの太陽風粒子は吸収されるが、一部は月面で反射することが月周回衛星かぐやの観測によって発見された。反射した太陽風粒子は磁場を変動させることがわかっている。

衛星かぐやが月周辺で観測した0.1Hzから10Hzの周波数帯の磁場変動(ホイッスラー波)は、月の日照側で強く、また固有磁場の上空でさらに強くなる事から、エネルギー源は反射粒子であると考えられるが、その発生メカニズムの詳細はわかっていない。反射粒子は太陽風が速いときに多いので、太陽風が速い時ホイッスラー波も強くなると予想し、太陽風速度と月周辺の磁場変動強度の関係を調べることにした。

月周辺の磁場データとして、衛星かぐやに搭載された磁場観測装置(LMAG)が観測した磁場3成分(サンプリング周波32Hz)を使用した。2008年3月1日から11月30日までのうち、月が太陽風に晒されている期間に観測された磁場データを使用する。この期間の衛星高度は月面から100kmであった。太陽風速度のデータには、衛星ACEに搭載されたSWEPAMが観測した太陽風速度を用いた。衛星ACEは衛星かぐやよりも約100万km上流側で観測を行っていたので、2つの衛星間の距離を太陽風が流れてくるのに要する時間分を遡ったデータを使用した。

磁場データを32秒ずつの区間に分けてフーリエ変換し3Hzから10Hzのパワーを合計して磁場変動の強さとし、これと太陽風速度との相関を調べたが、予想したような相関はみられなかった。月面上の場所によって固有磁場が異なり太陽風の反射率も異なると考えられるので、同じ場所(50m以内)で異なる日時に観測された磁場変動強度同士を比べても、太陽風速度とホイッスラー波のパワーの間に明確な関係はみられなかった。

一方、ほとんど同じ場所であっても、衛星かぐやと月面が磁力線で繋がっているとホイッスラー波は強く観測され、磁力線が繋がっていない時は観測されないことがわかった。衛星と月面上の磁気異常が磁力線で繋がっているときに磁場変動が強く、反射プロトンが衛星で観測されている場合であっても、磁力線の繋がりが途絶えた時には波も途絶えることがわかった。これより、3Hzから10Hzの磁場変動は、衛星より月面に近い高度で発生していると考えられる。

Possible relationship were examined between the power of the non-monochromatic fluctuations of the magnetic field over the frequency range of 3 - 10 Hz observed by Kaguya at an altitude of 100 km above the lunar surface and the speed of the incident solar wind observed by ACE, but none was found. Instead, control by magnetic connection between the spacecraft and the lunar surface was found. Intense wave activity was observed during the magnetic connection to the magnetic anomaly. The wave activity disappeared when the spacecraft was magnetically disconnected from the lunar surface, even when the detection of protons reflected by the moon persisted. It suggests that the wave was generated below the spacecraft altitude.

地球磁気圏ローブ中の月周辺のイオンサイクロトロン波の発生特性
Occurrence properties of ion cyclotron waves near the moon in the Earth's tail lobe detected by Kaguya
中川朋子, KAGUYA/MAP/LMAG Team, 斎藤 義文
Nakagawa, T., KAGUYA/MAP/LMAG Team, Y. Saito
第138回地球電磁気・地球惑星圏学会, 東京, 東京大学, 2015年10月31日.

月が地球磁気圏尾部のローブ中にあるとき、周期約10秒のイオンサイクロトロン波が月面上で観測されている(Chi et al., 2013)。この波は、周波数がプロトンのサイクロトロン周波数よりやや低く、狭帯域で、左回りの偏波が卓越するという特徴を持っている。その励起機構として、月面での吸収により高まったプラズマ温度異方性によるサイクロトロン不安定と、ピックアップイオンのサイクロトロン共鳴の2つが提案されているが、詳細は未解明である。

このサイクロトロン波は、アポロ15-16号ミッションで月面上に固定された磁力計によって発見されたため、発生機構を考えるうえで重要な、空間分布に関する情報が少ない。そこで本研究では、月周回衛星かぐや搭載の磁力計LMAGによって観測された磁場3成分1秒値を用い、その発生特性を調べた。

2007年10月から2009年6月までの期間中、衛星が地球の磁気圏尾部中にある時期を選び、120秒ごとにフーリエ変換ののち、ピーク周波数におけるパワーが0.3nT^2/Hz以上で、かつ、まわりの周波数のパワーより17dB(50倍)以上高いものを現象として検出した。まわりの周波数のパワーが0.03nT^2/Hzを超える場合は、ローブではなくてマグネトシースやプラズマシートの可能性が高いので除外した。

これにより、ローブ中の磁場観測期間の0.4%でイオンサイクロトロン波が検出された。そのピーク周波数はおよそ0.1Hzで、その場のプロトンサイクロトロン周波数の0.6倍ないし2倍,左回りのほぼ円偏波であることから、アポロミッションで発見されたものと同じであることがわかる。 (註:のちに右回りもあることがわかりました)

このイオンサイクロトロン波は月の昼側(地球側)でも夜側(尾部側)観測されており、昼側がやや多いものの、検出位置に際立った特徴はない。月面上の固有磁場との関係もあまり見られない。磁力線が月面と探査機をつないでいるときも、そうでないときも観測されており、月面によるプラズマ吸収による温度異方性による励起とは考えにくい。波形を見ると、いくつかのパケット状になっていることがよくあり、間欠的に発生しているのではないかと感じられる。年ごとに分けて検出率を求めてみると、衛星高度が高かった(おおむね90km以上)2007-2008年の検出率は0.31%であったのに対し、高度を下げた(40 - 90km) 2009年の検出率は0.65%であり、低高度での波の励起が示唆される。

Occurrence properties of narrowband ion cyclotron waves in the vicinity of the moon in the earth's tail lobe was investigated by using 1-s averages of the magnetic field data obtained by MAP/LMAG magnetometer on board Kaguya during the period from October 2007 to June 2009. The occurrence rate was 0.4% throughout the period, and higher (0.65%) at lower altitude (2009) while lower (0.31%) at higher altitude. The ion cyclotron waves were detected on the dayside and on the nightside, irrespective of the magnetic anomaly of the moon, or the magnetic connection to the lunar surface.

宮城県大崎市鳴子川渡で観測された14-20Hzの磁場変動
Narrowband magnetic fluctuations at 14-20 Hz observed at Kawatabi, Miyagi
菅井智寛,鵜池竜名,中川朋子
Sugai, T., R. Uike, T. Nakagawa
第138回地球電磁気・地球惑星圏学会, 東京, 東京大学, 2015年11月3日.

東北工業大学では、1997年よりインダクション型磁力計を用いたELF帯の地磁気変動観測を開始し、人工的なノイズの少ない宮城県大崎市鳴子川渡に磁力計を移動した1998年12月10日から現在まで、欠損はあるものの観測を継続している。観測周波数帯はおよそ0.125Hzから40Hz程度である。この周波数帯には、7Hz,14Hz,21Hz付近に常にシューマン共振が見られるほか、0.2-5Hz 付近にIPDPを含むPc1、また、観測周波数帯全域にわたって、現地の雷による非常に強いノイズが観測される。

今般、これまで知られていた現象とは異なる狭帯域の磁場変動が、主に14Hzから20Hzの周波数帯に発見されたが、その成因がまだわかっていない。観測周波数はシューマン共振に近いが、シューマン共振よりはるかに狭いバンド幅(0.4Hz以下)のくっきりしたスペクトルを示し、重畳していても容易に見分けることができる。現地の昼の時間を中心に現れ、1時間に数Hz周波数帯が変化していく。継続時間は3時間程度のことが多いが、朝方20Hz付近に現れ、昼11時頃から1時間ほどで10Hz まで徐々に下がり、夕方から夜にかけてまた20Hzに戻る場合も見られた。時間的に連続して見えるスペクトルを拡大してみると、時間変化する短時間のスペクトルが次々連なっていることがわかる。現在見つかっている例は12月から2月にかけての冬季のものが多いが、9月の例もある。発生時のKp指数は0から3が多く、地磁気が静穏な時期に観測されやすいと思われる。

Narrowband magnetic fluctuations in the frequency range of 14Hz - 20 Hz were detected by an induction magnetometer in Kawatabi, northwest of Miyagi prefecture, Japan. There was temporal variation of the frequency, with several Hz/hour. The bandwidth was typically less than 0.4 Hz. The magnetic fluctuations appeared mainly in the noon, during magnetically quiet period with Kp index of 0 - 3.

月ウェイクへの太陽風電子の流入とELF帯磁場変動に関する考察
Injection of solar wind electrons into the plasma void and associated magnetic fluctuations in the ELF range
中川 朋子, 綱川秀夫, 斎藤 義文, 西野 真木
Nakagawa, T., H. Tsunakawa
日本地球惑星科学連合2016年大会、千葉、幕張メッセ国際会議場、2016年5月25日.

月面による太陽風プラズマ吸収のため月の下流に形成されるウェイク中には、月表面で反射されたプロトンが太陽風磁場の周りをラーマー運動して進入するタイプIIエントリープロトンが存在することがNishino et al., (2009,GRL)によって発見されている。このタイプIIプロトン侵入による正電荷の過剰のため、太陽風電子が磁力線に沿ったビームとなって流入していることがかぐや衛星のMAP/PACEにより観測され、双方向電子ビームにより形成された静電孤立波と考えられる広帯域の静電ノイズ(BEN)が同時に観測されている(Nishino et al., 2010, GRL)。

一方、かぐや衛星搭載のMAP/LMAGによって、月の真裏のウェイク中心部で 1-8Hz程度の周波数帯のELF波動が観測されており、これもまたタイプIIプロトンを伴っていた(Nakagawa et al., 2015, EPS)。 このELF波は磁場強度の変動を伴っており、斜め伝搬の波であることがわかる。 明確な周波数のピークはなかった。ELF波の観測される時間はタイプIIプロトンの継続時間より短く、 衛星が月面と磁力線でつながっている間は観測されず(例外2例)、磁力線が月面から離れると同時に0.1keV程度の電子が増え、ELF波が現れた例が5例あった。すなわち、このELF波の励起には電子の存在が必要であることが示唆される。 また、タイプIIプロトンに伴う電子ビーム及びBENがあっても、ELF波が観測されない例が少なくとも8例見つかっている。

磁力線に平行な電子ビームで磁場変動を伴う波を励起することは困難であるが、電子ビームの温度が高いこと、背景のプラズマ密度に対して電子ビームの密度が高いこと、また、波の伝搬が磁場に対して斜めであることによって、静電的な不安定とホイスラ不安定がある条件のもと協働してホイスラ波を励起した可能性(Zhang et al., 1993, GRL)が示唆される。

Generation mechanism of the magnetic fluctuations in the ELF range detected by MAP-LMAG magnetometer onboard Kaguya in the deepest wake behind the moon associated with the type-II entry protons is studied. Most of the waves were detected on the magnetic field lines which were not connected with the lunar surface, along which the solar wind electrons were injected into the wake. The waves had compressional components of field variation, suggesting that the direction of the wave number vector was oblique with respect to the background magnetic field. Interaction between the field-aligned hot electron beam and oblique whistler and electrostatic waves is considered.

かぐや衛星によって太陽風中で観測された10秒程度の磁場強度増大について
10-sec magnetic field enhancement detected by Kaguya orbiting around the moon in the solar wind
刈部陽子、 宮澤豪、 村上健太郎、中川朋子、 綱川秀夫、
Y. Karibe, T. Miyazawa, K. Murakami, T. Nakagawa, H. Tsunakawa
日本地球惑星科学連合2016年大会、千葉、幕張メッセ国際会議場、2016年5月25日.

月周回衛星かぐやによって太陽風中で観測された磁場データ中、磁場が穏やかな時に、10秒程度の短い時間だけ磁場強度が急に1.5〜3.6倍強まる現象が発見された。2007年10月29日から2009年6月10日までに11例検出されたが、磁場方向を変えずに強度だけが強まる例と、フラックスロープのような磁場方向の回転を伴うもの、さらに複雑な磁場変化を伴うものがあった。月の固有磁場の上空では検出されず、また、同一の軌道を通ったときには再現されていなかった。月面上の太陽風の当たる側でもウェイク側でも見つかっているが、どちらかというとは昼夜境界付近で多く検出されている。衛星かぐやの高度が100kmの時も約46kmのときにも見つかっている。GEOTAIL衛星によって観測された同じ時刻の太陽風中磁場データ中を探したところ、似た波形の磁場変化は見つかったが、同じような磁場強度の増大は見られなかった。これが月起源の磁場なのか、太陽風起源の磁場構造か、それとも月と太陽風の相互作用によるものかは現時点では未解明である。

Short-period magnetic enhancements were detected by LMAG magnetometer onboard Kaguya spacecraft orbiting the moon in the solar wind. The magnitude of the magnetic field enhanced up to 1.5 to 3.6 times as large as that of the preceding quiet periods which lasted for more than 5 minutes. The duration of the enhancements was specifically 10 seconds, ranging from 8 to 46 sec. Some of them showed rotation of the magnetic field, but the others did not. The short-period magnetic enhancements were not detected above the major magnetic anomaly of the moon. They were not detected recursively on the same location on the moon. They were found both on the dayside and nightside of the moon, with a slight preference above the terminator. Similar magnetic field enhancement was searched for in the simultaneously observed solar wind magnetic field data obtained by GEOTAIL spacecraft, but no intensification of the magnitude was found although similar waveforms of each magnetic field components were found. At present, it is not certain whether they originate from the lunar crustal field, the solar wind, or the interaction between them.

かぐや衛星とGEOTAIL衛星によって観測された地球磁気圏尾部プラズマシート境界中のイオンサイクロトロン波
Ion cyclotron waves detected by Kaguya and Geotail in the Earth’s plasma sheet boundary layer
中川 朋子, 綱川 秀夫
Nakagawa, T., H. Tsunakawa
日本地球惑星科学連合2016年大会、千葉、幕張メッセ国際会議場、2016年5月25日.

アポロ15-16号ミッションで月面上に置かれた磁力計によって、地球磁気圏尾部のローブないしプラズマシート中で周期約10秒の狭帯域の磁場変動が観測されていたことがChi et al. (PSS,2013)によって報告されている。この波はイオンサイクロトロン波と考えられ、その励起機構として、月面での吸収によるプラズマの温度異方性と、ピックアップイオンのサイクロトロン共鳴というシナリオが示唆されていた。

月面上の高度100kmを周回するかぐや衛星でも、同じような狭帯域の磁場変動が観測された。その発生場所は月面上の月固有磁場とは関係がなく、また、衛星と月面が磁力線によってつながっていてもつながっていなくても観測されることから、月面のプラズマ吸収がこの波の原因とは言えないことがわかった。

さらに同じような現象を、GEOTAILの観測した16Hzサンプリング磁場データ中から探すと、月が磁気圏中に無い時に、地球から30-150RE下流の磁気圏尾部においても、同様の狭帯域の波が検出されていることがわかった。これらのサイクロトロン波は、プロトンのサイクロトロン周波数の0.7倍程度の周波数であること、磁場強度にも変動がみられること、ダイナミックスペクトルでは連続しているように見えても波形をよく見るとパケット状になっていること、などの性質が共通している。共通の性質をもつ波がCASSINIの地球スイングバイの際にも観測されており(Bogdanov et al., 2003)、同じ発生メカニズムによるものと考えられる。

一方、磁気圏尾部中では同じプロトンサイクロトロン周波数付近に右回りの円偏波ノイズが観測されている(Kawano et al., 1994)。冷たい高密度のローブ起源イオンと、速度差が1000km/sにもなるイオンビームが同時に観測されていることから、この右回りの波はイオン同士の共鳴不安定によるものとされた。

それに対し、今回報告する狭帯域のサイクロトロン波は、150REほどの遠尾部でははっきりと左回りであり、40REの月起動付近では右左が混在していた。偏波の違い、及び、周波数帯域の狭さの違いから、右回り円偏波ノイズとは異なる発生メカニズムによるものと考えられる。

Nearly monochromatic, narrowband ion cyclotron waves found by Apollo 15 and 14 Lunar Surface Magnetometers (Chi et al., 2013) were detected in the magnetic field data obtained by GEOTAIL in the distant tail lobe as well as in the data obtained by Kaguya orbiting around the moon in the tail lobe of the Earth’s magnetosphere. They have common characters such as the frequency range near the local proton cyclotron frequency, significant compressional components, and wave forms comprising discrete packets. They are also similar to the waves found by Cassini during its Earth swing-by (Bogdanov et al., 2003). Polarization of the narrowband ion cyclotron waves was predominantly left-handed at far downstream, while near the lunar orbit, both right-handed and left-handed polarization was detected.

Ion cyclotron waves detected by Kaguya and Geotail in the Earth's tail lobe and plasma sheet boundary layer
Nakagawa, T.
41st COSPAR Scienti c Assembly, Istanbul Congress Center, Istanbul,2016年8月6日 (Assembly cancelled).

Narrowband ion cyclotron waves with frequencies at around 0.7 proton cyclotron frequency as found by Apollo 15 and 14 Lunar Surface Magnetometers (Chi et al., PSS, 2013) were detected in the magnetic field data obtained by GEOTAIL and Kaguya in the distant tail lobe and the plasma sheet boundary layer. Kaguya was orbiting around the moon at an altitude of 100- 40 km above the moon. The waves were detected irrespective of the magnetic connection of the spacecraft to the lunar surface. The waves have common characters such as the frequency range, narrow bandwidth, significant compressional components, and wave forms comprising discrete packets. They are also similar to the waves found by Cassini during its Earth swing-by (Bogdanov et al., Ann. Geophys. 2003). Polarization of the narrowband ion cyclotron waves was predominantly left-handed at far downstream, making contrast with the right-hand circularly polarized noises reported by Kawano et al (GRL, 1994), while near the lunar orbit, both right-handed and left-handed polarization was detected.

Magnetic uctuations in the ELF range associated with electron beam toward the type-II entry protons in the deepest lunar wake
Nakagawa, T., H. Tsunakawa, Y. Saito, and M. Nishino
41st COSPAR Scienti c Assembly, Istanbul Congress Center, Istanbul,2016年7月31日 - 8月6日 (Assembly cancelled).

Magnetic fluctuations in the ELF range from 0.1 to 10 Hz were detected by MAP-LMAG magnetometer onboard Kaguya in the deepest wake behind the moon, where the magnetic field is usually quiet (Nakagawa et al., 2015, EPS). They were accompanied by the type-II entry protons (Nishino et al., 2009, GRL), and most of them were detected on the magnetic field lines which were disconnected from the lunar surface, along which the solar wind electrons were injected into the wake. The waves had compressional components of field variation, suggesting that the direction of the wave number vector was oblique with respect to the background magnetic field. The generation mechanism of the ELF waves is studied in association with electron beams. Interaction between the field-aligned hot electron beam and oblique whistler and electrostatic waves is considered.

磁場に平行な太陽風中と地球磁気圏ローブ中で観測されたイオンサイクロトロン波の周波数について
On the frequency of ion cyclotron waves in the solar wind with radial magnetic field and in the earth's magnetotail
中川朋子
Nakagawa, T.
第140回地球電磁気・地球惑星圏学会, 福岡県福岡市, 九州大学伊都キャンパス, 2016年11月22日.

地球磁気圏ローブ中、ないしプラズマシート境界において、プロトンサイクロトロン周波数の0.7倍前後の周波数の狭帯域の磁場変動が、アポロ15-16号ミッションで月面上に置かれた磁力計(Chi et al., 2013)およびかぐや衛星によって観測された。これらの多く(7割)は背景磁場に対して左回りの偏波を示し、イオンサイクロトロン波と考えられるが、その発生メカニズムは未解明であった。 かぐや衛星によって、これらの波が月面上の衛星位置とは無関係であることが示され、さらにGEOTAIL衛星によって、月が磁気圏中にないときでも地球から30-150RE下流の磁気圏ローブ中で観測されたことから、波を発生させているのは月起源のイオンではなく地球磁気圏起源のイオンであることが示唆された。 同様の波は、CASSINI衛星の地球スイングバイ時にも、磁気圏内の広い範囲において観測されている(Bogdanov et al., 2003)。

よく似た周波数の左回りの磁場変動が、月を周回していたARTEMIS衛星でも観測されている(Halekas et al., 2013)が、このときARTEMIS衛星は太陽風中にあったので、波を励起したのは地球磁気圏の粒子ではなく、月起源のイオンと考えられる。このとき太陽風磁場は太陽風の流れにほぼ平行であった。

これらの波は、太陽風中や地球磁気圏内という異なる状況下にありながら、プロトンサイクロトロン周波数の0.5-1倍で左回りが卓越している、という共通の性質を持っている。共通の励起機構として、背景プラズマ(太陽風、またはプラズマシート境界のプラズマ流)に打ち込まれるビーム成分のイオンがイオンサイクロトロン波とサイクロトロン共鳴するという形が考えられる。 サイクロトロン共鳴条件は、角周波数ωと波数kの空間では、周波数軸の切片がイオンサイクロトロン周波数で、ビーム速度と媒質速度の差(および伝搬方向となる角度)によって決まる傾きを持った直線となる。 地球前面衝撃波での反射プロトンや月面上の磁気異常での反射プロトンのように、ビーム速度が大きく速度差も大きい場合は、この直線の傾きが大きく、共鳴できる波はRとLの両モードの低周波部分(MHD領域)となり、衛星で観測されるときには媒質速度の分ドップラーシフトするため、0.01Hz程度の、主に左回りのULF波として観測される(元の波がRモードでドップラーシフトが小さい場合は右回りもある)。 傾きが少し緩やかな場合はRモードのwhistler波、あるいはLモードのイオンサイクロトロン波と共鳴する可能性があり、whistler波はドップラーシフトによって月周辺の1Hz波として多くの探査機で観測されている。

本研究のようにプロトンサイクロトロン周波数の0.7倍(0.1Hz)程度の波として観測されるためには、速度の小さいビームがイオンサイクロトロン波と共鳴することが必要である。もともと速度の小さいイオンが、速い流れのプラズマ領域に入り込んで相対的に速いビームとなってイオンサイクロトロン波と共鳴し、共鳴した波は衛星から見るとサイクロトロン周波数に近い波として観測される。地球のローブないしプラズマシート境界層では、磁気圏尾部へ向かう流れに、ローブ側から遅いプロトンが入り込むことによって同様のことが起こり得ると考えられる。 太陽風磁場が太陽風の流れに平行な時は、月によって垂直方向に散乱された太陽風プロトンは、静止系(月や衛星の系)から見て速度が遅く、かつ長時間同一の磁束上に存在すると考えられる。これが太陽風の系から見るとビームの役割を果たし、イオンサイクロトロン波とサイクロトロン共鳴すると考えることが出来る。

なお、磁気圏尾部で観測されたうちの約3割を占める右回り偏波の波は、ビーム成分となったイオンがwhistler波とサイクロトロン共鳴したものと考えられる。

Generation mechanism of monochromatic, narrowband ion cyclotron waves in the frequency range between 0.5 to 1 proton cycrotron frequency is studied. The waves were detected in the Earth's magnetotail by Apollo 15 and 14 Lunar Surface Magnetometers (Chi et al., 2013), Kaguya, GEOTAIL, and Cassini during its Earth swing-by (Bogdanov et al., 2003), and also in the solar wind with radial interplanetary magnetifby in the were detected in the magnetic field data obtained by GEOTAIL in the distant tail lobe as well as in the data obtained by Kaguya orbiting around the moon in the tail lobe of the Earth’s magnetosphere. They have common characters such as the frequency range near the local proton cyclotron frequency, significant compressional components, and wave forms comprising discrete packets. They are also similar to the waves found by Cassini during its Earth swing-by (Bogdanov et al., 2003). Polarization of the narrowband ion cyclotron waves was predominantly left-handed at far downstream, while near the lunar orbit, both right-handed and left-handed polarization was detected.

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